ピクサー・イン・ア・ボックス「ストーリーテリングの技法」14
最終更新: 2月8日
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カーン・アカデミーで公開中のピクサーの無料講座「ストーリーテリングの技法」の日本語訳を公開いたします。
今回は、レッスン3「ストーリーストラクチャー」より、8つ目の動画「構造についてのレッスンの前に」の翻訳です。
これまでの翻訳はこちらです。
レッスン1
レッスン2
※本記事のキャプチャーはすべて、カーン・アカデミーで公開中のピクサーの無料講座「ストーリーテリングの技法」レッスン2の7つ目の動画「構造についてのレッスンの前に」からのものです。また、カーン・アカデミーが掲載している米Pixar社の動画教育コンテンツに許可を得て翻訳し掲載しておりますが、Pixar社が本動画に正式な日本語訳を付与した場合にはそちらが正しいため、本コンテンツの掲載を取りやめる可能性があることをご理解ください。
動画8:構造についてのレッスンの前に

こんにちは、私はクリステン・レスター。ここピクサーのストーリーアーティストです。今日は、ストーリーを体系化して話す方法、ストーリーの構成についてお話しします。でもその話をする前に、ディスコに行ったマッシュルームのジョーク<のお話しをしてみようと思います。
あるマッシュルームがディスコに行きました。

彼は女性に歩み寄りダンスを申し込みました。
女性は
「いやー!気持ち悪い。あなたマッシュルームじゃない!」
と相手にしてくれません。
マッシュルームは他の女性のもとに行きダンスを申し込みました。
「ごめんなさい、興味ないわ。」
次の女性も、次の次の女性も、そのまた次の女性もマッシュルームの誘いを断ります。
誰も彼とはダンスを踊りたがらないのです。

とうとうマッシュルームは、バーテンダーのところへ行き困惑した様子で、こう言います。
「意味が分からない。なぜ誰も僕と踊りたがらないんだ?ぼくはfungi※なのに」
(※訳者注:fun guy=楽しい人, fungi=きのこのダブルミーニング)

(笑い声)
ね、このジョークは構成を持っています。オープニング、中盤の展開、そしてジョークのオチであるエンディングを含んでいます。

この構成はジョークを面白くする重要なポイントです。構成は視聴者に何を知ってほしいか、そしてそれをいつ知ってほしいかという問いへの答えです。
仮にこの順序を間違ったものにしてしまったら、それは大問題になるでしょう。
ちょっとやってみましょう。

ねえ、ジョークを話してもいい?

では、あるところにFungiがいました。そして…しまった!オープニングを間違えた。

よし、ねえ、ジョークを話してもいい?
では…、ディスコに行ったマッシュルームがいました。
そして、そこにはバーテンダーが…
あーもう!(メモを確認する)
中盤も間違えた。

ねえ!ねえ、ジョークを話してもいい?
よしいくわよ、ディスコに行ったマッシュルームがいました。
ダンスフロアには沢山の女性たちがいました。マッシュルームは彼女らをダンスに誘いました。
彼女らは「いいわよ」と(メモを再度確認)…
ちょっと、何の問題もないじゃないの!(怒りがこもったため息)。

ほらね、構成は大切だということがよく分かったでしょう。
構成が面白いジョークを伝えるにあたって重要な役割を果たすように、構成はあなたが作る映画を視聴者にとって感動的なものにするにあたっても必要不可欠なものです。

(シッ)構成に関する具体例をお話ししましょう。
[マーリン]ニモ!

[クリステン] 初期段階のファインディング・ニモのストーリー構成は最終的なものとかなり違っていました。
監督は、ニモの両親が子供たちを持つ前の様子を回想シーンとして映画全体に散りばめるという構成を取ろうとしていました。

マーリンとコーラルが出会うシーン
[マーリン]やぁ、こんにちは。
– [クリステン]恋に落ちるシーン。そして海底の家で二人で暮らし始めるシーン。
これらは細切れのシーンとして映画の至る所に配置されました。
[コーラル]あなた、なんて素敵なんでしょう。

– [クリステン]メインストーリーであるマーリンとニモの物語はほぼ最終版と同じ内容でした。
しかし、回想シーンを散りばめるフラッシュバック構成では、視聴者は映画の終盤までマーリンの妻コーラルの存在を知ることはできません。
-[マーリン] コーラル、気をつけろ!
[クリステン] そしてコーラルの卵が実は、すべてバラクーダに殺されていたことも物語の最後で語られていたのです。
(マーリンのうなり声)
(コーラルの叫び声)

この構成で上映したところ、視聴者がマーリンを好きになれないという大きな問題がおきてしまいました。
制作チームは話の構成を見直し、そして気づきます。
この映画をこの構成とすると、なぜマーリンは息子に対してこのような態度をとっているのかを、ほとんど映画の終わりまで視聴者が理解できず、共感ができなかったのです。

そこで映画を再編集し、ほとんどの回想シーンを取り除きました。
唯一、マーリンとコーラルの家がバラクーダに襲撃され、ニモ以外の卵とコーラルが殺されたシーンのみを残し、映画の冒頭に配置したのです。
[マーリン]何があっても必ずお前を守る。約束するよ。
この変更は、視聴者がマーリンに対して、どのような感情を抱くかに大きな影響を与えました。

視聴者は、マーリンがどれくらいの喪失感を味わったのか、マーリンがニモを追いかけたのはどれだけ勇敢なことであったかを映画の冒頭から理解することができ、マーリンというキャラクターを愛することができるようになったのです。
ファインディング・ニモのケースではストーリー構成を再編成することがこの映画の何が問題なのかを発見するための重要なポイントでした。
もちろんすべての映画は違いますし、ストーリー構成上の課題が何なのかも違います。
このレッスンでは、ピクサーではどのような異なるアプローチでストーリー構成を考えているのかを見ていきます。
そして、みなさんが、ご自身の物語の構成を考えるにあたってそれらの手法を試せるようになることを目的とします。

ふむ、そういえば、キノコのジョークをフラッシュバック構成で話していたら、もっと面白くなっていたかも知れないですね。
…多分、そんなことないですね。
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